国語(?)の話ー。
晩御飯用に炊飯器(すいはんき)でご飯炊いてたら
なんか詩っぽい物語を思いついたのでメモっておきます。
長いうえに雑文なのでご容赦を。
☆タイトル:『万物感謝教(ばんぶつかんしゃきょう)』
あるところに、現代人の、
男が一人おりまして。
機械に囲まれて生きておりました。
人とはあまり接しませんでした。
日々はただ同じように過ぎますが、まあこんなものだと思い、
炊飯器だの、冷蔵庫だの使い、
不自由なく生活していました。
ですが、ある日ふと、思うに。
「ああ、この生活は便利だが、
このままでは俺は傲慢(ごうまん)になってしまうやも。
せめて身の回りの機械に感謝せねば」
と、機械に感謝することを始めまして。
それを「機械感謝教(きかいかんしゃきょう)」と名づけました。
それまで宗教持たぬ男でしたから、彼は何やらそれを得意にし、
人と会う珍しきことあれば、
それとなく言いふらしておりました。
すると、ある日、来客がありまして。
見れば、機械の作り手たちでございました。
彼らの言うに、
「機械はひとりでに生まれる物じゃなく、
私たちが頑張って作っているのです」
と怒るので。男はあわてて、
「すみません、では今度から、
『作り手と機械感謝教』といたします」
と言ったので、作り手たちは満足して帰っていきました。
男はほっと胸をなでおろしましたが、
それからまた数日後、
今度は作り手の親たちがやってきました。
いわく、
「作り手はひとりでに生まれる者じゃなく、
親があってこそ生まれる者なのです」
と怒るので。男は急いで、
「わかりました、では今度から」
『親と作り手と機械感謝教』といたします」
と言ったので、親たちは満足して帰っていきました。
男はやれやれと思いましたが。
それからまた数日後、
どっと大勢の人たちが現れました。
彼ら口をそろえて、
「親たちだろうと何だろうと。
人は一人で生きれる者じゃなく、
万人(ばんにん)は万人に支えられ生きる者なのです」
と怒るので。男は冷や汗を流し、
「分かりました、では今度からはもう、
『万人と機械感謝教』といたします」
と言ったので、だいたいの万人は満足して帰っていきました。
が、気づけば、まだ帰らない人が一人おりまして。
ようく見れば、小さな子供でございました。
男がどうしたのか、と問うと、
子どもは黙って何やら、指さしました。
そちらを見れば、森があり、
動物やらがおり、木々だの、空だのがありました。
さて、子どもはどれを指しているのか。
男はもう聞くのも面倒でして。
やけになって、自分から、
「分かりました、ではもう面倒になったので、
この世にある物全てに感謝する、
『万物感謝教(ばんぶつかんしゃきょう)』といたします」
というと、子供は何やら、にこっとして帰っていきました。
さあて、誰もいなくなって男は、
「やれ面倒なことになったぞ。
俺はただ身の回りで済ませようと思ったのだが」
などと思いましたが、後の祭りです。
言ったことは言ったこと。
そして次の日になりまして。
仕方がないので、万物に頭を下げ、感謝します。
今日もまた朝日が上ることに。
吸う息のさわやかさに。
空の青さに、
出会う人、出会う人に。
道がそこにあり、そこを歩けることに。
お店で買い物ができることに。
人が、品を手渡してくれることに。
色んな所で、機械だのが動くことに。
帰り道の、夕方の美しさに、
何とも切ない感じと、
次に来るであろう、夜の静けさに。
それらは普段、男が、
「あるのは当然」だとして、やり過ごしているものでした。
その一つ一つに男は感謝し、頭を下げました。
さて、夜も近くなりまして。
男がぺこぺこしつつ、よく行く店に行きますと。
多少は知った店員が、何やらにこにこしております。
男は怒って、
「そんなに、私の行いがおかしいですか」
と問いますと。
店員は手を振って、否定を示して、言いました。
「いや、以前は、あなたはむすーっとして
目も合わせてくれなかったけれど。
まるで自分は最初から、
一人で生まれてきたような、顔してたけれど。
今は色んなものに感謝して、人に目も合わせているなあと。
忙しそうですが、今のあなたの方が、良いですよ」
なんてことを、言うのです。
男はそれを聞くと、とても恥ずかしくなって。
お代を払って、急いで店を飛び出しました。
さて男は顔を真っ赤にして、家路を急いでおりましたが。
あれこれ、あれこれ考えるうちに、
ふと思いついて、つぶやきました。
「そうだ、万物に感謝するといいながら、
まだ自分への感謝はしていなかった。
うん、今回始めたことはいかにも面倒で、
とても恥ずかしいことばかりだったけれど、
それなりに気づきはあった気がする。
これを始めた自分は偉いじゃあないか。
感謝だ感謝。あっはっは…」
などとぶつぶつ言い出しました。
なんなら他の人にも聞こえるように。
その顔はまだ真っ赤でございました。
それはいかにも言い訳でしたが、
先ほど店員に言われたことを思い出すと、
さほど嘘でもありませんでしたし、
そんなに悪い気も、しないのでした。
そして男は、彼を支えてくれる、
機械だのの待つ家に帰るのでしたが。
その足取りは、『昨日』に比べ、
何やら少し、軽いのでした…。
<終>
※
まあそんな感じで~。