ゲームの話ー。
TRPG『ドラクルージュ』*1の今度やるシナリオ考えていたら、
なんか裏事情の小説っぽい物ができてしまったのでメモ。
※ 勉強とは関係ない内容となっております
※ 以下の内容はフィクションです
※ ※ ※
シナリオ小説 (裏事情)
☆題名:『首なし → 騎士』
――それは、戦いたいと思っていた。
それは騎士と戦いたいと思っていた。
戦って戦って戦って。戦って戦ってその末に。その中に。その中で。
結実する、結果の、熱を味わいたい。味わいたいと。
ああ!熱を!戦いを!この手に!
「あああああ……」
思い、どろどろとした思いが手を作った。足を作った。鎧を作った。
騎士と戦うに能う力を作った。意思を作った。仮初めのものを。
強い思いは形を作り、疾駆する影を作った。
「アアアアアア!オオオオオオオッ!」
※ ※ ※
――常世国、ドラク領。
常夜の中でも夜とされる時間。
険しい山道を、異形の影が走っていた。
凍るような氷雨の中、雷鳴を背に、恐ろしい速度で。
禍々しき灰色と黒の鎧の者が、馬を走らせている。
知るものがいれば、冥王軍の「死の騎士」と見ただろうが、細部が違った。
よく見れば「馬にまたがって」いるのではなかった。
それは人馬が一体となり、継ぎ目もわからぬほどに溶け合っていた。
兜があるべきところに首は無し。
伝承に詳しいものは、こう呼ぶだろう。
―――「首なし騎士(デュラハン)」。
といってもいささか「人頭馬(ケンタウロス)めいてはいるが……
ここでは仮にその怪物を「首なし」と呼ばせていただきたい。
※ ※ ※
走りながら「首なし」は考えていた。考えていた。
渇きが満たされない。餓えが満たされない。ああ。
どこに戦いがある?戦うべき騎士がいる?
「アアアオオ!騎士……キシ…ドコ……ォーオー?ォォオ!」
叫びながら呟きながら、疾駆する、山道を駆ける。
この地で。これまでに何人かの騎士と手合わせしたが。
まだ負けていない。だから止まれない。満足していない。
山道を疾駆し続け。やがて崖の多い道に出る。
ふと開けた眼下、崖下のつづら折りの道が見えた。
そこに、動く者があった。氷雨振る悪環境だというに。
馬車の隊列。それを守護するのは。
鎧を着、馬にまたがるもの。氷雨をも平然と耐える者。
待望の存在。
――騎士。
「アアァアアァー!イ―ハハーッハァー!騎士ィィィ!」
「首なし」は歓喜に任せて駆けおりた。険しき崖を下り、一気に馬車の前へ出る。
人間技ではないが、人馬一体のこの身にはたやすい。――勿論、騎士も同じことができると信じているが。
降り立った「首なし」を前に、馬車前方で守護していた二人の騎士は驚いている。
氷雨の音に邪魔されてか、どうやら「首なし」の接近には気づけなかったようだ。
だがそんなことは関係ない。すぐに関係なくなる。
楽しい時間だ。
「アハーハハハハァァアー!我が名は×××!イザ!イザジンジョウニイ!尋常にィ!」
名乗りを上げながら手中に槍を形成。
自らの体組織を変え、形成したそれは、赤黒く鋭く輝いて血に濡れる。
「ショウ――ブッ!」
突き出す。あいさつ代わりの一撃。しかしその速度は尋常ではない。
雷光のごとく放たれたそれは、前方の騎士の胸をやすやすと貫いた。
「ぐっ…?」
貫かれた騎士がうめく。ぐらりと体が傾いだ。
(だが、こんなことで不死である騎士が死ぬはずもない)
槍を突き出しながら、「首なし」は楽しみだった。
きっとすぐに反撃してくるだろう――。つばぜり合いだ。剣戟だ。
楽しい戦いの始まりだ。
と。「首なし」はそう思っていたのだけど。
「くっ…こいつが噂の……、て、撤退だ!」
「う、うわああ!出たあああああ!お助けええええ!」
あろうことか。二人の騎士は、踵を返して逃げだした。
護衛役であるはずの彼らが、馬車と隊列を置いて。
「――ア?エ?…ハ?」
「首なし」にとってはよく分からない事態。
馬車を動かすなどしていた何人かの「民」も同じだったようで、彼らもひと時ぽかんとしていたのだが。
やがて、事態のまずさを悟ったのか、口々に叫んだりしながら逃げていった。
残されたのは、「首なし」と、放棄された馬車。
期待されていた戦いはなし。そもそも相手がいない。
どう考えても、(「首なし」にとっては)訳が分からなかった。
「オ―、オオオ―…オオーオオァイ!? アア!?ナンデ!?ナンデナンデ!?ナゼタタカワナイノサ!?ナンデダヨォォーッ!?」
何故反撃してこないのか。何故、民を放っておいて先に逃げるのか。
何故…みっともなく逃げ出すのか!
騎士の恥!風上にも置けぬ!
感情としてはそう罵ってやりたかったが相手に声は届かない。
後を追ってもよかったのが、もはやその価値も、気持ちもなかった。
立派な騎士なら、追撃するに足る。だが相手が騎士でないのなら…。
虚しい。
「アーー…」
しばらくそうやって「首なし」が呆けていると。
馬車の中に、動く気配がした。
※ ※ ※
がさごそ、という感じか。
御者を失い、止まった馬車の方から、何か生きているものの動く気配がする。
それを聞いて。「首なし」は、少し嬉しくなった。
もしかしたら、騎士がまだ馬車内にいたのかもしれない。
自分の目の前に、姿を現してくれるかもしれない。
増援?第2陣?よかろう、望むところ。
戦いこそ我がすべて。戦いこそ我が歓喜にして××――。
「……そこに、いるのは誰?」
――思考中断。聞こえたのは少女の声だった。馬車の中から聞こえたのは。
明らかに、戦意みなぎらせた騎士のものではない。
「首なし」は少しがっかりした。
「誰、ですか…?」
またもか細い声。どうやら自分に呼びかけているようなので。
「アー…アアアー…?」
返事をしてみるが、してみるだけ。会話は成立しない。
こういう時に、どう話せばいいのかわからない。
そもそも自分に意思はない、気がする。思考はある。でもほぼ欲望だけ。
それでもどうにも放っておけない、と思ったので――あと少しは興味が湧いた気がして―
「首なし」は人馬一体となっていた我が身から、人型だけを切り離す。
そうして、2歩3歩、近づいて、馬車の扉を開けた。
※ ※ ※
中にいたのは、肌の白い少女だった。
青い目を見開いて震えながらこちらを見ている。
「誰ですか?」
「アー…アァア‥…?アエー……エウア?」
よく分からない返しをする「首なし」。
少女は眉根を寄せる。
「え…何て?…え……もしかして、『ドウブツ』?」
ドウブツ…「動物(どうぶつ)」?理解して、「首なし」は少し心外だった。
この姿、怪物に見えても、動物に見えるものか。
何たる侮辱!けしからぬ!
が、そこで気が付いた。少女は目を開いているが、焦点が合っていない。
そして今まで「首なし」の姿を見たものはみな恐れていたが、どうも反応がない。
向いている方向も少しずれている気がする――
首なしは悟った。少女は目が見えていない。
「アア―……」
何か言いたい気持ちが起こった気もしたが、うまく言葉にできない。
それでも何となく釈明したくて「首なし」は言葉を紡いだ。
「ドウブツ…ジャ、ナイ。ドウブツジャナイ」
「あ、ご、ごめんなさい。その…私…ごめんなさい」
少女は頭を下げ、
「えと、じゃあ誰です、か……?」
と問い返す。
「アー…アアー?」
「首なし」は困った。誰と言われても困る。自分は誰でもない。誰でもないのが自分。
返事が返ってこないのに焦れたか、少女が言葉を変えた。
「…助けに、来てくれたのですか?」
「タス…タスケ?」
「私を助けに」
言っている意味がよく分からなかったが、
少女の手足はよく見ると、鎖に繋がれていた。
※ ※ ※
「アアアア―…アアアア?」
(ん?なんだこれは?なんだこれは?)
「首なし」はまたもわからないことに直面した。
何かの気持ちがこみ上げる。
せいぜい民が旅行か何かで馬車を使っているのだと思っていたが。
あるいは貴人を護衛しているのだと思っていたが。
…正確には別に「想像」してすらしていなかったが。
目の前を見るに、そんな風情ではなく。
つまり、あの騎士たちは。あのみっともなく逃げ出したものどもは。
もしかして?
いたいけな少女を、鎖につないで。連行していたのか!?
「……アアーアアァ―ッ!!アアーアアッツ!」
「首なし」は吠えた。よくわからない。よくわからないが煮えたぎるものがある。
分からないままに腕を硬化。「刃」と化して四度振るう。
気がついたら。鎖をすべて断ち切っていた。
「っ……!」
少女は身をすくませる。風音と、切るときに、鎖が少し引っ張られたようだ。
声音に恐怖がにじんでいる。
「ッァ…ゴメ…ゴメ…ン」
我に返った「首なし」は、なんだか申し訳なくて、
脳裏にかすかにあった謝罪の言葉を口にする。
暴力が振るわれるのでないとわかり、少女は構えを解き――やがて鎖の軽さに気が付く。
「もしかして…助けてくれたんですか?鎖を斬った?」
「タス…タスケ…タブンソウ。ゴメン」
「首なし」が謝ると、少女はくすくすと笑った。
「ありがとうございます。助けておいて謝るんですか?
「アーアーア……?ソウ、タブンソウ、タブン」
「……思いついたままに行動するなんで、激情家なんですね。まるで昔話の騎士様みたい」
「キシ……キシ?――騎士!?」
興味ある言葉に、「首なし」は少女に体を――なにしろ首がないので体を―寄せる。
気配を察して少女は身を引いたが、もはやそこまでおびえてはいなかった。
「騎士の話に興味があるんですか?」
「ソウ…ソウ…キシ…キシ…!」
「え、えーと、はあ、じゃあ話しますね」
平常心であれば、話をしている場合でもなさそうだったが。
異常な状況で逆に感覚を失ったのか、少女はまんざらでもなさげに語りだした。
※ ※ ※
「……それで『風車(かざぐるま)の騎士』は化け物から王女様を助けたんですけど……」
しばらく、あるいは少しだけの時間が立ち。
馬車の中で、「首なし」は少女の話を聞いていた。
少女が紡ぐ、大昔の騎士の物語を。
語られる物語は「おとぎ話」と呼ぶにふさわしく、荒唐無稽であった。
それでも夢があり、希望があり、騎士としての姿がそこにあった。
物語の主人公「風車の騎士」は騎士という呼び名であったが、
現在の常世国で「騎士」と呼ばれるような、美しい者たちとは違う。
割にとんでもない人物であった。
――常に酒を飲み、怒って暴れて、もめ事を起こす。
やたら油断しては失敗し、成功すればすぐ高慢になる。
大ぼらを吹き、それを自分でも信じているようであり、夢見がちで迷惑もかける。
だが情には厚く、困っている人を決して見捨てない。
涙もろく、すぐに騙され、人のために財を投げ打つことしばし。
それでも人を信じ、格好をつけて旅を続ける。
だいたいが空回りばかり。風車のようにからからと。
しかしどこか人を和ませるところのある。
ゆえに彼を「風車の騎士」と人は呼ぶ……。そういう話だった。
※ ※ ※
少女は話を続ける。
「騎士は結局、助けた王女様とは結婚しなかったんですよ」
「アー……ナンデ?」
「王女様にはもう好きな人がいたから、身を引いたのですって」
「アー……」
よく分からないままに「首なし」は相槌を打つ。
氷雨の音ばかり。時々雷鳴が鳴り響く夜に。
少女の前に異形の者がいる、という図ではあったが。
何かしらそこの空気には、和むものがあった。
そして、「首なし」の振る舞いにも明らかな変化が生じていた。
「デモ……キシ。それは、騎士、ダネ」
―――自分のために戦うのでなく、人のために戦える者こそ。
言葉にするとそのような思いを乗せて、「首なし」は語った。
その口調はわずかながら滑らかになり、その答えはいくばくか、理性的なものとなっている。
少女は、我が意を得たり、とばかりに笑った。
「ありがとうございます。私もこの話は好きなので嬉しいです」
そしてふう、と息をついた。
ずいぶん長い間、二人は集中して話していた。実際の時間にすれば短いものであったろうが。
「なんだか疲れちゃいました。不思議な時間をありがとうございます。でも……」
そこまで言って、少女は居心地悪げに身じろいだ。
「えーと…その、少し、言いづらいのですが」
「ゥ?」
少女はそこまで言うと、見えないながらにできるだけ「首なし」の方を向き、決然と言った。
「――助けてもらってなんですけど、このまま放っておいてもらえますか」
※ ※ ※
「ア…ア……?」
その言葉を聞いても、しばらく「首なし」は言われていることがよく分からなかった。
だって彼女は困った境遇に置かれているのではないのか?
困惑する「首なし」をよそに、少女は言葉を紡いでいく。
「その……私、あの村には戻れないんです」
「ここら辺には怖い領主様がいて、よく村から女の人が連れていかれて…」
「逆らうとひどいことになるからって、誰も逆らえなくて」
「私は、その、不思議な力が少しあって。そのせいでみんなから嫌われてて」
「それで、私が犠牲になるのもしょうがないかな、って思ってたんですけど…」
「あなたが来て、それで、助けてくれて、それで…」
「……もういいかなって。もう全ていいかなって思ったんです。
本当なら、あなたに連れてもらってでも、すぐに領主様のもとへ行くべきなんですけど。
もう、なんだかもう、全部疲れちゃったから。
今は……楽しかったから。それでいいかなってもう、思ってしまったんです。
ごめんなさい……ごめんなさい」
独り言のように紡がれる言葉。他人事のように発せられる経緯。
少女の述懐を前にして。「首なし」は。
何もできないでいた。
最初は何かの想いが……湧いているように、思った。怒りのようなものが。
でもそれは、やがてすぐに消えた。やがて湧いたのは無力感、のようなもの。
そう思わせるほど
目の前の少女は、どうしようもなく、疲れ切っていた。
どこか、本能の奥で悟る。
明るい少女が、いきなり暗くなったのではなくて。
人生に疲れ切った少女が、たまたま明るかっただけなのだと。
※ ※ ※
「首なし」は慌てた。
どうする―――どうする?いやどうすることもできない。
違う。どうする必要もない。
自分に必要なのは戦いである。それだけである。
しかし、しかし、これを助けないのは騎士ではない。
騎士ではないなら、それはあのような、先ほどの、
逃げた臆病者どもと同じではないか――。
「……しばらくすると、領主様が人を遣わしてくると思うんです。そうしたらあなたは捕まっちゃうから……早く逃げてください」
少女はそう言って、また顔を伏せる。
「首なし」はそれを見て。
助けたい、と思った。
※ ※ ※
追手との戦いはむしろ望むところである。だが、それは今の彼にとっては問題ではなかった。
今の彼が立ち向かうべき問題は別にあった。目の前の、命が抱える問題。
でも、どうすればいいのか。
「アアー、アア、ダイジョウブ‥…」
しかしどうすればいい?どう話せばいい?そのような機能は、最初に欲したものではない。
殺し合い、戦えればよかった。だがここに来て、まったく別の戦いが必要とされている。
自分は。騎士とは。人生とは。思考がまとまらない。
言葉があふれる。怒り。不幸、臆病者。風車の騎士。
ああ――こんな時、少女が好むといった、風車の騎士なら、どうするのだろう。
「キシ…騎士ィエ……カ、カザグルマ…」
「かざぐるま……?『風車の騎士』がどうかしたんですか?」
顔を伏せていた少女がわずかに反応する。
(反応があった!この線は、話題には、彼女の反応を引き出す力がある!)
「アア―ア!カザグルマ…ソウ!風車、そう…私は、風車のキシ、騎士、です!」
※ ※ ※
嬉しくなって。言葉を紡いて。「首なし」はすぐに己の言い間違いに気づいた。
違う、それを言うなら、「私は風車の騎士のようでありたい」だ。
このわずかな間で、急激に発達してきた理性で、「首なし」は器用に後悔する。
だが。
目の前の少女はぽかんとして。その後。
おかしそうに、笑った。
「嘘ばっかり。あなたは、風車の騎士じゃない、ですよ」
(笑った……笑った!)
首なしは何とも言えない気持ちで、満たされた。
そのまま、勢い良く、次の言葉を吐く。何も、整合性は、考えずに。
「違い……マス!ウソジャナイ。私は『風車の騎士』、デス」
「だから嘘ですって。『風車の騎士』はずっと昔の話なんですよ?あなたはそのころから生きてきたんですか?」
「そう……デス。生きてます……生きてキマシタ、私。ずっと、ずっと騎士」
「首なし」は話し続ける。少女の反応が、笑顔が途切れないように。
当然その言葉は嘘だらけで、ほとんど何も考えず話でいるだけだけど。
あたかも物語の『風車の騎士』のように、ウソをつき続ける。
「いったいいつから生きてきたんですか?」
「1000年……2000年……昔、昔!デス!そう、それはほんと、その物語、全部、ホントウ」
「ええー……ほんとかなー」
少女は笑う。嘘には全部気づかれている。というか最初から成立していない。
でもよかった。そんなことはどうでもよかった。
このかすかな時間が、途切れなければ。
「首なし」の中には元から無数の情報があった。無数の言葉があった。
今までは戦いに向けてのみ使われてきたもの、ほとんどは詰まっていても意味のないもの。
だが活用できなかったそれらの断片が、今一つの目的に向かってまとまりつつあった。
少女を助けたい、ということ。
※ ※ ※
少女は興味深げに、「首なし」に問いかけてくる。
「じゃあ一体、あなたはどういう人なんですか?あなたの名前は?」
「ワタシ……?ワタシの……名前は…」
名前なんてない。私は誰でもない。でもそう言いたくはない。
何か、何かないか。
一つの名前を言うことはできない。それでは「誰か」になってしまう。
それでは×××を裏切ってしまう。
言葉を探す。言葉を探す。
「騎士は……騎士です……『私』は……『俺』は……僕は」
あたふたと「一人称」を変えながら思考する。
だめだ、これでは騎士らしくない。強さが足りない。
思考がまとまらない。中にある情報は使えない。
自分が何者なのか。考え始めれば、自我が解けてしまいそうになる。
元々向いていないのだ。まとめてくれるものが必要だ。
なにかそれらしいもので。騎士らしいもの。
騎士らしいもの……騎士らしい物語?
――『風車の騎士』、の一人称は?
「――『我輩(わがはい)』は……!」
※ ※ ※
大げさでいばりんぼ、自分を「我輩」と呼ぶ『風車の騎士』の名乗り。
それを真似た瞬間、「首なし」の中で何かが揃った。
聞いたばかりの、古い類型(モデル)。
でも彼にとって最も新しい騎士の型。
――「首なし」が、少女からもらったもの。
思考の「殻」と焦点を得て、思考が急激に形をなす。
「首なし」から言葉があふれだす。「風車の騎士」のように。
「わ…『我輩』は!騎士であり、ずっと、騎士でありマス。名前は、パーチ、いやセルヴィ、いやトランスレイ、と呼ばれましたかな!?」
突如妙な口調でしゃべりだした「首なし」。
それを聞いて、少女はぽかんとしている。
即座に「首なし」は後悔した。でも、ここで止まるわけにはいかない。
「なぜかと言えば……、えー、なぜ名前が多いかと言えば!そうだ、深いわけが、あります!お聞かせしましょう、その物語、その戦い!幾星霜の!時を超え!語り継がれる、それは、そう、ええと……マンティコアとの戦いの時でしたでしょうか……」
継いで継いで。知った言葉を適当に組み上げて。考えながらしゃべる。考えずにしゃべる。
(まずい。まずいまずい)
「首なし」は嫌な予感がしていた。
自分は能力を得た。理性も発達した。でも。
調子よく語りだしたはいいが、内容がなかった。
「私は!騎士は――いつでも民を助ケル、ものですカラ、だから、その、その……」
(あと発達した理性だから分かる。けっこう恥ずかしい、これ)
いたたまれず、次に何と言うべきかわからずに、でも。その時。
くすくす、と笑う声が聞こえて。
見ると少女が笑っていた。それだけで。
大抵のことは、何でもないと思った。
「つまり―――姫君、お助けに参りマシタ、そう、私はあなたを助けに来たのです。まさしく!最初に、あなタが言ったとおりに!」
「まあ、そうなんですか?」
調子を合わせてくる少女。
流石に「首なし」が、『風車の騎士』の主人公を模していると察したのだろう。
いつの間にか、明るくおどける余裕が出ている。
「そう、悪の手からあなたを救い出すためにこそ!」
「それは素敵。ありがとうございます」
「どういたましまシテ。だから姫君――お手をどうぞ」
「えっ?」
「ここから、脱出しましょウ」
手を差し出す「首なし」。急に具体的なことを言われ、戸惑う少女。
何となく口にして、それらしく振舞っただけだけど。
自分の今の「気持ち」にはあっている気がした。
「……でも」
戸惑う少女に、首なしは畳みかける。
「我輩の物語はまだ終わっておりませヌ。あなたのも!続きを――見たいと、思いませぬか。あなたの好きな、『風車の騎士』を?いや、生で見ておかないと損ですゾ!いやなぜならワガハイ本人ですシ……」
慌ててまくしたてる「首なし」。
その口調に少女はしばらく迷って、迷って、やがて困ったような顔を浮かべた後、
「……はい」
とほほ笑んで手を差し出し、「首なし」がその手を、静かに受け取った。
※ ※ ※
――いつの間にか外では氷雨も雷も止んでいて。
普通なら、民はとうに寝ている時刻ではあったが、「首なし」は、
そんなことは構わない、と思った。
「さあ姫――。絶好の旅立ち日和であります」
それが、少女「ラブカ」と、以前「首なし」と呼ばれた者の、短い旅の始まりであった。
※ ※ ※
常世国は常に夜にして、時に「夜」も「朝」もない。
時刻は形ばかりのもの。仮初めの区切りにすぎぬ。
だからこそ。
無理やりにでも心を区切り、進もうとするものに対して。
「朝」はいつでも訪れうるのであった。
(終)