のっぽさんの勉強メモ

主に中学の学習内容と、それに絡みそうな色んなネタを扱っています。不定期更新ですー。あ、何か探したいことがある場合は、右の「検索」や記事上のタグやページ右にある「カテゴリー」から関係ある記事が見られたりします。

1/25 ゲーム:TRPG『ドラクルージュ』シナリオ小説っぽいもの/『夜は更ける』

ゲームの話ー。
TRPG『ドラクルージュ*1の今度やるシナリオ考えていたら、
なんか裏事情の小説っぽい物ができてしまったのでメモ。

※特に直接的な描写とかはありませんが、雰囲気にエロスがなくもないのでご注意を。


※ ※ ※


☆題名:『夜は更ける』



 ――常世国にあっても「夜」はある。もっとも半ば形のみに近いが。


 夜に終わりがないこの国であるが、一方で「夜」の区切りはとても重要であった。
 もちろん民はこの時に眠り、その身を休めるが、それだけでなく。
 またそれは騎士にとっても、憩いの時になりえる。
 さして眠りを欲さぬ騎士にとって、昼夜の別は実たる意味を持たずとも。
 「時」はいつでも同じものと思ってしまえば、生は味気のないものとなる。
 故に、「区切り」やささやかな「宴」の類は、おろそかにはできぬものであった。


※ ※ ※

 さて、「夜」は平等に、とある領地の上にも訪れていた。


 ――シュヴァルツシルト領、執務室。
 蝋燭の仄かな明かりが領主の顔を照らす。
 金の髪に、青き瞳。外見は整った顔の青年に見えるが、その齢は50を超えている。
 オルランドシュヴァルツシルトノスフェラス卿である。


「先日の夜会は…楽しいものだったな」
 彼は手元で書をしたためながら、自分の侍従長「サラ」に声をかけた。


 先日、とある騎士がこの領を訪れたのだ。
 オルランドが言っているのはその時に開いた宴のことである。
 本来、ある騎士の領地を他の騎士が訪れるのは珍しいことではない。
 だが、この領に限っては珍しい部類に入る。
 領主の血統が「ノスフェラス」なれば。――不名誉の血統なれば。
 全ての責を血統に帰するのは、いささか乱暴かもしれないが…。


 「ええ、本当に楽しゅうございました」
 サラが笑顔で返す。
 その声に強い喜色を感じ取り、オルランドはふとサラの姿に目をやった。


 今年で20の半ばの娘。
 年若き侍従長。健康であり、存外に壮健でもある。
 美しい顔立ちをし、栗色の髪を簡素に後ろでまとめている。
 清潔にはしているが、華美ではない。
 だが侍従長の名に恥じぬ、主の顔に泥を塗らぬ程度には着飾っている。
 そして何よりよく働く。

 ――サラはよくやっている。自分には余るくらいに。

 オルランドはぼんやりと考える。
 そこで先日の宴の光景が脳裏をよぎった。


 この領を訪れた騎士をもてなす宴。
 かの騎士を、熱心にもてなすサラの姿。
 かつて見たことがない熱の入れようだった。
 ――そう、自分にも見せたことがないほどに。


 ふと思う。
 自分は何かを怠っていただろうか?
 密に彼女に不満を抱かせていたのだろうか?
 自分は良き領主ではなかっただろうか…?


 オルランドは首を振る。そうではない。
 自分とあの騎士を比べる必要はない。
 それに人の想いは自由である。
 それを縛るのは領主としても、騎士としても狭量に過ぎる。


 ああ、だがしかし。
 現在の目の前のサラ、その姿は、その清廉さ、挺身を持って、どこか自分を断罪しているようにも見えた。オルランドの邪心を。
 せめて彼女が放蕩、邪悪の類であったなら。彼女こそを断罪できたものを――。


 オルランドはまた首を振った。どうやら疲れているようだ。


 主の様子を見て、サラが声をかける。


 「お疲れですが?お休みになられた方が」
 「いや、大丈夫だ」
 「では、お飲み物のお代わりは」


 サラは手近にあった葡萄酒を差し上げて見せる。
 オルランドは手の中の酒杯を見た。とっくのとうに乾いていた。
 それを手で弄びつつ、彼はぽつりと声を漏らした。


 「渇いているのは喉ではない」


 しまった。彼は即座に後悔した。
 こんなことを言うつもりではなかった。
 目の前のサラを見ると、顔を赤らめていた。
 告白したも同然だった。自分は騎士として「渇いて」いるのだと。
 抱擁や口づけを要求しているのだと。
 自分を慰めよ、と。


 「お望みならば…」
 サラは少し恥じらいながらも言い、主に一歩近寄った。
 オルランドはそれをとっさに手で制す。


 抱擁や手首への口づけの類が、騎士と民では意味が違うことは知っている。
 有り体に行ってしまえば「性的な」ものを要求するわけではないことも。
 騎士のそれは精神の癒しであり、肉体の欲求とはまた違う。
 そして従者であるならば、騎士の渇きを癒すことはなんら恥ではない。むしろ誉れである。
 分かっている。分かってはいるのだが。


 だが、オルランドはサラにそうしたくはなかった。
 何故だろう?
 魅力を感じていないわけではない。
 彼女にはいつも感謝し、頭が上がらないほどだ。だが。
 騎士と従者の関係を理由に、彼女に実務以上の何かをさせたくはなかった。
 彼は思う。


 (美化しすぎているのかもしれない)
 「こんな」自分のために尽くしてくれている者を。
 (負けたくないのかもしれない)
 「こんな」自分であっても、憐れみを乞う存在であるとは、思いたくはなかった。
 (恐れているのかもしれない)
 「こんな」自分を拒まれることを。あるいは無理強いすることを。


  そして、目の前の娘が、自分以外の誰かを思いながら、
  自らの手に抱かれることは何よりも――


 (ああ――絡まりすぎている)


 オルランドは手を突き出したままうなだれ、沈黙する。
 サラは、一向に――今夜だけではなく、従者として一度も――自分を求めようとはしないオルランドに、問いかける。

 「私は何か…粗相を致しましたでしょうか」

 その体は、少し震えていた。


 そういうことではない、とオルランドは思った。だがそれを正確に説明することはできない。説明することはすなわち、この醜さをさらすことだ。


 「……そうではない、そうではないのだ。ご苦労だった。今日はもう下がって良い」




※ ※ ※


 オルランドはサラを強引に帰らせると、背後にある、自領の紋章を見遣った。
 その模様は3つの要素によって構成されている。

 緑の若木、それをかばう黒盾、その一切を囲むような城壁。

 未来への希望、それを守る決意を込めて作ったものだ。
 だが今はそれが、自分の狭量さを示しているようにも思えた。
 自分の過保護さを。そして自分の勇気のなさを。


 「…城壁はやめて、鳥や鳳凰にすべきだったかもしれん」


 せめて模様だけでも、もっと軽やかなものに。もっと自由なものに――。


 だがそれが本質的な問題でないことは、彼にもわかっていた。


※ ※ ※


 心に暗きものがあれど、それでも夜は続いていく。
 常夜国の夜には終わりがない。時はただの区切りに過ぎない。
 すなわち、心を区切れぬ者にとって、「夜」はまさしく終わりがなかった。




                            (終)


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