のっぽさんの勉強メモ

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2/26 ゲーム:TRPG『ドラクルージュ』自作小説/『迷える夜の羊』

 ゲームの話ー。
 またTRPG『ドラクルージュ』の小説っぽい物ができてしまったのでメモ。

※ 勉強とは関係ない内容となっております
※ 以下の内容はフィクションであり、割と内輪用の趣味の二次創作です
※ 若干エロス的な内容が含まれています



※ ※ ※

☆タイトル:『迷える夜の羊』



 ーーカリアハは飽きていた。誘惑することに飽きていた。


 常世国。
 ある森の一角に、フォーンの魔女がいた。名を「カリアハ」という。
 彼女が属するは淫蕩なる異端「フォーン」。
 羊の角に悪魔の尻尾。民を惑わし、乱痴気騒ぎを繰り広げる種族であった。

 彼女もまたフォーンらしく露出度の高い淫らな格好をし、振る舞いをしていた。
 豊満な肢体、美しさに恵まれた彼女にとって、民や騎士を堕とすこと容易く、毎日のように退廃的な饗宴を送っていた。
 しかし、そんな日々を繰り返すうちに、彼女はどこか物足りなくなった。
 あまりにも堕とすのが容易すぎたのだ。

(つまらない)

 彼女にかかっては誰もかれもが容易く堕ちる。
 同じようなこと、同じような日々。
 仲間たちは「考えすぎだ」「今を楽しもう」というのだけど、
 結局それでは「昨日」も「今日」も変わらなかった。

 カリアハは考える――ほぼ考える、ということがない彼女にとってこれは珍しい――そしてこれは、「良い相手」がいないからだと結論付けた。恋をすべき相手。良い相手が。

(もっといい獲物を探しに行こう)

 恋の駆け引きは狩りに似ている。良い獲物がいなければ腕は落ちるのみ。
 そして彼女は夜の森に繰り出し、
 道を行く、一つの影の前に立った。


※ ※ ※


 道を行く影は、男だった。

 濃い緑の外套に、剣を佩いていない様。どこぞの騎士、賢者であろうと思われた。なぜなら民が無手で森を歩くはずはなく、武を誉とする者は、どこかしらに剣を具現化させておくことが多いからだ。
 その男は見た目では30~40に見えた。が、静かな知性をたたえた目は、騎士ということを除いても、それ以上の年齢や研鑽の日々を思わせた。
 そんな男にカリアハはしおらしく話しかけてみせる。


「ああ、道を行かれます方、どうぞお待ちになって。私はカリアハと申します。どうか一時、私の話し相手になってはくださらない?」


 そう言って体をくねらせてみせる。
 簡単な所作だが、これだけで、大半の民や並みの騎士ならばぽうっとした顔になるのが常であった。
 しかし、今宵出会った男は、しばし黙った後に外套を取り、

「ああ……。どうも、セルヴィスと申します」

 とぺこりと頭を下げた。その様子に、特に変化はない。

(これは手ごわいかも?)
 ちょうどよい獲物かもしれない。
 カリアハは少しだけワクワクして話しかけた。

「ああ、セルヴィス卿。素敵なお名前ですね。さぞ名のある方とお見受けしましたが」
「いや、そのようなことはありません」
「しかし、貴卿の振る舞いは只者のものではありません。よろしければ、一つ武勇伝やお話を伺いたいのですが」
「いえ、特にありません。話すほどのことは」
「……」

 余りに手ごたえがなかった。体よくあしらわれている気もしたが、特に嘘をついている様子もなかった。本気で自分に自信がないのだろうか?
 カリアハは焦れ始める。
 こうなったら実力行使だ。もともと露出度が高かった服をさらにくつろげ、体より発する香気を倍にする。

「……貴卿もご存知でしょうが、フォーンは寂しいと死んでしまう(※なお嘘である)、哀れな生き物です。どうか少しでも哀れに思うなら、貴卿の熱で温めては下さりませぬか?」

 そう言ってその豊満な身を寄せる。これなら是非もなく飛びついてくるだろう、と思ったのだが。

「いえ、遠慮しておきます」

 と、すっと身を引かれた。

 流石に、これにはカリアハも傷ついた。
 誘惑に負けまいと、むきになって拒まれることはあった。そうやって懊悩している様も、こちらの楽しみの一つであった。
 しかし、冷静に断られるのは初めてだった。まるで自分に本当に(最悪ちっとも)魅力が無いようではないか。
 ……というかこちらが寂しいと言っているのに「遠慮しておきます」はおかしいだろう。この男は本当に賢者なのだろうか?

 静かに傷つくカリアハ。
 セルヴィスはそれを見てしばし考えたのち、口を開いた。
「カリアハ殿は、何か悩んでおられますか?」
「……どうしてそう思うのです?」
「いえ、何やらあなた自身がつまらなさそうだな、と思いまして」
「!」
 カリアハは驚いた。何故この男には自分の考えていることがわかるのだろう。
 確かに今の自分は心のどこかで乗り気ではない。それが表に出ていただろうか。あるいはそれが、誘惑の手を緩めているのかもしれなかった。

※ ※ ※


「ふむ……」
 様子を見て、セルヴィスはまた何やら思案していたが。ふと口を開いた。
「カリアハ殿はこの森には詳しいのですか?」
「え、ええまあ、長い間いますから」
「ではあなたにはこの森がどう見えますか?」
「どうって」
 一応周りを見渡してみるが、特に大したものはない。
 鬱蒼とした森があるだけである。
「……いつもと同じ森であるように見えますが」
「そうですか」
 頷いて、セルヴィスは近くの木に触れる。

「森、と言うと同じように見えますが、一つ一つ名前と特性があるものです。これは…檜(ひのき)ですね。良い香りがします。あちらはモミの木……。私がいたところと植生が違うので、興味深いです」


「……そんなこと知る必要もないわ。楽しければいいじゃない」
相手があまりに自分の調子で進めるので、カリアハの言葉もだんだん崩れてきた。
「知っていなければ、楽しめないとでもいうの?」
「そんなことはないですが。……ああ、貴女は足元にある花の名をご存知ですか?」

 見れば、道の横に小さな白い花が咲いていた。
 言われてみねば気づかぬような、地味な存在である。

「いいえ」
「この花は『時告げる花』というそうです。『時惜しむ花』ともいうそうですが」
「ふうん……?」
 しゃがみ込み、花を眺めるセルヴィス。手をかざし、されど触れず、愛でながら話す。
 カリアハも何となくその横にしゃがみこんだ。
 …ちなみに座る時に体をくっつけてみたが、セルヴィスは全くこちらを見なかった。

「真夜中の、ある一時にしか咲かない花なのです。ゆえに『時を告げる花』とか、『時を惜しんで咲く花』、とされるわけです。それを見られるのはとても運がいい」
「そうかしら……。もっとこう、美しい薔薇や椿の方が私は好きだけど。花冠(はなかんむり)にもできるし」

 カリアハは派手で明るい気分になれるようなものが好きであった。
 こんな地味な花では、宴も気分も盛り上がらない。
 セルヴィスは正直な意見に苦笑する。
「まあこの花は、派手ではないですね。でも……一説によれば、太陽のある時代からの植物であるそうですよ?」
 そこでセルヴィスは、ぱっとカリアハに顔を向けた。

「当時から、夜のわずかな時間しか咲かぬ花であったと。太陽の時代ではまあ分からなくはない。しかしそれが、紅月昇るこの世にあっても、同じ習性を保っている。…不思議なことだとは思いませんか?栄養や環境が違うのにですよ」

 そう語るセルヴィスの目は子どものようにきらきらとしていた。
 語調もわかりやすく速い。どうやら、植物マニアらしい。
 その純真さにカリアハの胸は少し高鳴った。が、すぐに気がついた。

(私、花に負けてる?)

 悔しくて、ぷいと横を向きながら答える。
「せっかくなら、もっと咲いていればいいのに。あるいはもっと美しく咲けばいいのに。だらけているのかしら」
「いえ、こうとも考えられます。この花は短い間咲くのが精いっぱいなのだと。懸命に力を使って、それでも咲けるのが、わずか一時なのだと」
「……なるほど」
 そういう考え方もあるのかと、カリアハは少し感心した。


 そしてふと思う。

――そう、だから自分たち「フォーン」も楽しく騒ぐの。


 自分たちは不死だけど、民の命は短い。花の命も短い。
 そうだ。そうだ。
 だから民に楽しみを教えてあげるのだ。フォーンに引き入れてあげるのだ。
 難しいことも辛いことも忘れ、みんなで楽しく騒げるように。
 なんだ、やっぱり自分たちのやっていることが正しいんじゃないか。
 それが全て。それがフォーン。それが快楽……。


 しかし、今宵は、頭のどこかで。

――本当にそうなのかしら?

 という疑念が、何やら首をもたげていた。
 何故かは、カリアハ自身にもわからないけれど……。


※ ※ ※


「――摘みますか?」
「え?」

 しばし思考に気を取られていたカリアハに、セルヴィスが話しかける。

「花冠にでもしますか。摘めばあとは萎れるばかりですが」
「え、ええと……」

 何を言っているのだろう。この男は、先ほどまで花の貴重さを説いていたのではなかったのか。
 だが目の前の男は驚くほど真剣に、カリアハを見ている。どうやら冗談を言っているのではないらしい。思考がちょっとおかしいのだろうか。

「懸命に咲いているなら。かわいそうじゃないのかしら?」
「でもそれは、全ての花に対して言えることです」
「………………」
「まあこれは色も地味ですし、特性を除けば、あなたにとっては重要じゃないかもしれませんが」

 目の前の男、セルヴィスは何を考えているのだろう。花を摘ませたいのか、摘ませたくないのか。カリアハを試そうとしているのか。
 あるいは、命の尊さを説きたいのか。それが一番ありそうな話だった。
 そうだ。きっとこの男は、花をダシにして、何かしらのことを言いたいのだ。賢者らしいことを。

(そうまで言うなら、摘んでやろうじゃない)

 そうだ、美しくないものでも、美しくすればいいんだ。
 自分の手で引きあげてあげよう。高みへと。
 そう思ってカリアハは手を伸ばし――

 止まった。


※ ※ ※

 何故か、どうにも摘む気が起きない。
 摘んではいけない、と心のどこかが言っている。

 なぜ手が動かないのだろう、とカリアハは考える。

 先ほどのセルヴィスの言葉がよみがえる。
 この花の特性は、咲いている時だけのもの。
 摘んでしまえば、つまらない花になる。外見では薔薇や椿に劣るだけの花。引き立て役になるかならないか。
 後から美しくすることもできるだろう。飾ることもできるだろう。しかし。
 大して欲しくもないものを、あてつけのように、
 無価値なものにしてまで摘む、それは本当に正しいことなのか?

 そこまで考えて気づく。

 ――「正しい」とか。「無価値」とか。
   自分はいつから、こんなに傲慢になっていたのだろう?

(あれ、あれれ……)

 カリアハの思考は急にまとまらなくなってきた。
 何か、まずいことに気づいてしまった気がする。


(あれ、価値があるとかないとか、無粋なことじゃない?)


 それはカリアハが嫌う、「お堅い」話ではないのか。
 何が効率がいいとか、優先順位がどうだとか――。
 民があくせくしている話。騎士が愚直に守っている話。
 そんな小馬鹿にしてきた物に、カリアハ自身が陥っている?

(つまらないのは私自身?)

 分からない。どうにも分からない。
 でもただ一つだけ分かっていることがあった。


 ――カリアハはこの花をこの花のまま、愛することはできない。
 今までやってきたようなやり方では。


(ああ――)


 花に、今まで出会ってきた者たちの顔が重なった。


※ ※ ※


 彼女が出会ってきた存在は、大方が彼女の虜になり、
 彼女の同族(フォーン)にしてくれと懇願してきた。

 そしてカリアハは彼らが求めるままにした。

 求められるのは嬉しかった。与えることも嬉しかった。
 そうすることが「みんなの」幸せと思ってきたけれど。
 そうするのが「みんなにとって」楽しいからと思ってきたけれど。

(でもそれは本当に、正しかったのかしら……)

 相手のことを「良い」と思い、最初に恋をした瞬間の、ときめき。
 それはいつの間にか、損なわれていたのではないか?
 だってカリアハの前では、みな同じ蕩けた顔をするようになるのだから。

 村で見た、朗らかな笑顔の娘。
 今では手元で、ただ淫蕩な笑みを浮かべるだけのしもべ。
 主を思う様が美しかった騎士は、
 今では主を侮辱さえしながら、乱痴気騒ぎをしている。

 それでもいいと思っていた。楽しいからと。
 でもそれは、結局、最初の相手をそのままで、愛することはできていない。
 ただの、支配される存在にしてしまうだけ。
 そこにその相手の良さは、もうない。
 加工された花の美しさ……。どれも変わらぬ花冠(はなかんむり)。



※ ※ ※


「――私、本当は何も愛せてない?」

 カリアハは、ぽつりとつぶやいた。
 それとともに、何やら頬を熱いものが伝っているのを感じた。
 涙であった。

「全部、全部、つまらなくしているの、私の方……?」


 それは問いの形ではあったが、半ば確信であった。
 つまらない世界。つまらない繰り返し。
 世の中ってそんなもので、だから楽しくしなきゃと思っていた。
 でもその「つまらなさ」がカリアハの中にあったのなら?
 世界は楽しいのに、カリアハが自分から損なっているだけではないか……!
 頬を伝う涙は量を増し、カリアハは嗚咽し始めた。


 賢者セルヴィスは彼女をじっと眺めていたが、実は内心驚いていた。
 そこまで期待して花の話をしたわけではなかった。だが、ここまで響くとは。目の前のフォーン、カリアハは想像以上に思い詰めていたらしい。
 泣いているカリアハの背を、セルヴィスは子供をあやすように、ぽんぽんと叩いた。
「辛いことを申しましたか?」
「いいえ、いいえ…。何も分かっていなかったのは私」
 カリアハが両手で涙を拭うさまは、もはや童のようであった。
「……あなたの行いはさておいて。水をあげすぎても、花はダメになってしまいますね。皆があなたの情を、そのまま受け入れられるわけではありません」
「はい……だから」
 そう、だから変えようとしたのだ。変えてしまったのだ。
 皆等しき自分の影――フォ-ンへと。
 相手の個性を奪って、同じようなものにして。


※ ※ ※


「――私を封印しますか?」
 急に。脈絡なく。
 カリアハは自分でも何を言っているか、わからぬまま口走った。
 ぎょっとするセルヴィス。に対して、
「私を地獄に、封印なさいますか」
 なお口にするカリアハ。
 すなわち、カリアハを、民や騎士を堕落させた罪ある異端として、地獄に送るか、という意味である。
 普段なら決して口にしない言葉。それほど今の彼女は動転していた。
 セルヴィスも理由は問わなかった。相手はもっとも民を堕落に招く異端、フォーンであるがゆえに。異端審問官なら絶好の機会と、彼女を地獄に送っただろう。しかし…。

「……なるほど、まあそれはそれで、ありなのかもしれませんが」

 しかし急な展開に、今度はむしろセルヴィスの方がやりづらそうであった。異端から地獄送りを請われることはそうそうない。
 何より、自分で自分を裁こうとしている者は、地獄に送りづらい。またその意味は薄いようにも思えた。生きて自らを裁けるものは、まだやり直すことができるやもしれぬ。
「自ら頼んで地獄に入る手もありますが……ともあれ、もう少し悩んでみてはいかがです?」
「ひどい方ですね」
 カリアハは彼を恨みがましく見る。今、自分はこんなに悩んでいるというのに、それを続けろというのか。

 この思考の仕方は、彼女はまだ自己中心的に考えている証拠でもあった。
 ある者が飛躍的に賢くなれるものでもない。急にカリアハが正義や遵法の心に目覚めたわけではないのだ。ただ快楽の新たな形に、少し触れただけの事。その延長線上にたまたま「他者の尊重」があった。

 セルヴィスはまあまあ、と手を振る。
「新たな考えを得られたのは重畳ですが、しかし、明日には違う考えになっているのかもしれませぬ。焦らずもう少し、考えてみるとよいでしょう。悩める異端…フォーンの方は珍しい。そこからこそ見つかる何かもあるかもしれませぬ」
「見つかるもの……」
 そんなものがあるのだろうか、とカリアハはいぶかしがる。が、ぐしゃぐしゃになった思考では分からない。


※ ※ ※


「まあ何にせよ」
 セルヴィスは咳払いをする。
「その考えを疎かにせぬためにも、とりあえず、不埒に民や騎士をたぶらかすのはやめておいた方が良いかと」
 一応、釘を刺しておく。
「はい」
 こくこくと頷くカリアハ。即答であった。
「……フォーンに引き入れる『刻印』も不用意に行わない方が良いですね」
「はい」こくこく。
「…………服装の露出ももう少し抑えてもいいかもですね」
「はい!」ぶんぶんと首を振るカリアハ。
「………………」
 セルヴィスは困惑する。
 相手(フォーン)にとっては割と無茶な要求をしたはずなのに、全部が飲まれていた。しかもカリアハが急に従順になったせいで、先生と生徒のような感じになってしまった。変な感じである。
 困ったのが、先ほどの不埒な振る舞いより、今の方が(ある意味)魅力的でさえあることだった。カリアハ自身は気づいていないのが救いだが。
「それで、これから私はどうしたらよいでしょうか先生」
(先生って呼ばれた)
 今のカリアハはセルヴィスの現在の弟子よりもよほど素直であった。
 ちょっとだけ取り替えたくなる。
 我慢して、言葉を続けた。
「あー……、教えるのは簡単ですが、自分で考えるのが良いかと。とりあえず、この森にいると周りに迷惑がかかるようなので、ここからは退去した方がいいでしょうね」
「分かりました、では早速!」
 言うが速いが、走りだそうとするカリアハ。直情型なので、思い込んだらすぐ動くのだ。
「あ、少し待ってください!」
 セルヴィスが止めると、彼女はそのまま走りだそうとする姿勢で固まり、首だけを向けてきた。犬みたいだと思ったがさすがに言わずにおく。
「……周囲に迷惑をかけないのはいいとして、ただ孤独になれば、心が渇くだけです。そうすれば堕落者に堕ちるだけ。そのための対策は考えた方がいい」
「対策……」
「一番良いのは、模範となる方を見つけることですね。立派な騎士がいれば、お話を伺ってみるのもいいかもしれません」
「そんな方がいるでしょうか」
「分かりませんが……とにかくあなたは少し軽挙妄動が過ぎます。その勢いで堕落されても困りますし。もうしばらくその花を眺めて過ごしていなさい。修行のようなものです」
「はーい……」
 カリアハは言われるがまましぶしぶ、花の前に戻る。 やけに素直であり、先ほど出会った時の彼女が嘘のようであった。

 (やれやれ)
 セルヴィスは変な夜になったな、と思った。
 落ち着きのないカリアハのせいで、くるくると立場が入れ替わる、
 異端というのは余人を惑わすというが、これもまた計略の内なのか?
 どこか違う世界に迷い込んだかのようであった……。


※ ※ ※

 ――後日。
 森の近くの領主の屋敷。
 セルヴィスはこの地の若き領主リースベルト(名誉のため、血統は伏す)と対面していた。

「……ということがありました。あれから森を見回っていますが、少なくとも彼女の姿や新しい被害の話は聞きません。どうやら森からは去ったようです。一応問題はないかと思います」
 セルヴィスは報告を終える。
「さすがセルヴィス殿です。かの魔女をやり込めるとは」
 領主リースベルトが感嘆する。

 彼はもともと、この地を騒がせるフォーン(カリアハ)について頭を悩ませていた。そこで通りがかった旅の賢者、セルヴィスの力を借りたのだ。依頼は捕縛、もしくは無力化。何故か地獄送りの要請は控えめであった。

 リースベルトは満足げな顔をしているがが、少し残念そうでもあった。
「しかし逃がしてしまうとは……惜しいことをしましたね」
「そうですか?無理に捕縛して逃げられれば被害も増えたでしょう。彼女がそのまま行いを改めれば、少なくともこの土地にとっては、脅威が一つ減ると思いますが」
「い、いや、そうではなく。異端にしては美しかったか、と思いまして。……はは、戯れを申しましたな」
 笑って見せるリースベルトだが、様子に欲望が見え隠れしていた。
 セルヴィスは嘆息する。
 おそらく、カリアハを捕縛して自分の愛人にでもしたかったのだろう。道理で依頼が「できれば生け捕り」という妙なものだったわけだ。恐るべきはフォーンの魅力、と言いたいところだが、近年は若い騎士の未熟さも目立っていた。
 喝を入れなければならないだろう。
 セルヴィスは重々しい顔を作って言って見せる。
「カリアハと名乗るフォーン……、あるいは悟りや信仰の道に足を踏み出しうるやもしれませぬ」
「まさか」
 異端にそのようなことはあり得ぬだろう、と否定するリースベルト。
 セルヴィスはにっこりと笑った。
「難しいことと思いますが、あり得ぬこととは言えますまい。さて……、異端にできて騎士にできぬことあらば、笑われますぞ」
「はは……」
 目の奥が笑っていないセルヴィス。リースベルトの顔がひきつる。


 ああ、騎士の道の尊さは変わらねど、その道に迷う者の多き事よ。

 しかし迷いに気づいたものはまだ幸いである、とセルヴィスは思う。
 何故なら道を変えることができるからだ。新たな道を目指すことができるからだ。
 気づかぬものは、それさえできぬのだ。迷妄のままさらに迷っていく。
 されど孤独なものが己の迷いや間違いに気づくのは難しい。

(だから、人には誰かしら友や導く者がいるとよいのだけど)

 セルヴィスは、フォーンの魔女の行く先に思いを馳せた。
 今頃どこを迷走しているのやら……。
 何処にせよ、「迷走」しているのは確かだろう、と思うと少しほおが緩んだ。


※ ※ ※



 ――時系列は乱れるが、ここで、少し時間を戻すこととしたい。



 あの夜、あの後。セルヴィスに言われ、カリアハは素直に花を見つめていた。
 眺めていたら花はやがて閉じてしまった。本当にわずかの時しか咲かないらしい。

 …見ているとまた涙が出てきて、しばらく泣いていた。
 しかし、泣いて泣いたら、泣くのに飽きた。
 途中から「泣いてる私もいじらしくて美しいんじゃ?」と思ったが飽きたものは飽きた。
 じっとしているのはそんなに得意でもない。何より新しいものがない。
 ここにいても見えるのは自分だけだ。それは今はつまらない。


 カリアハは立ち上がる。
 セルヴィスは去っていたので、今や一人であった。
 これから何をすればいいのかは実はよくわからなかった。
 模範とすべき立派な騎士も、そうそういない気もする。……今まで出会った者は大体が彼女の虜になっていた。
 自分はまるで道に迷った羊のようだ、と思った。


 でも、したいことは決まっていた。

 何かを静かに愛したい、と思った。

 今までとは違うやり方で。そのために色んなことを知りたいと。
 相手のことを。世界のことを。
 損なわぬように。無駄に変えぬように。
 そのままを愛すことができたなら……。
 きっとそれは素晴らしいものになるだろう。
 そんなことを考えながら、カリアハは伸びをした。


 彼女はこの時、愛されることよりも、愛することを願った。
 これは彼女の生で初めてのことで。苦しくもあったのだけれど……。


 道に迷った結果としては、そうそう悪くない気分だった。



※ ※ ※


 この後、カリアハは「民」に化け、しばらく民に交じり生きることとなる。
 彼女は特に民の服装を好み、「衣をまとうもの(ヴェーラー)」カリアハ、という異名を頂戴することとなる。
 そしてそれは、新たな物議をかもすきっかけともなるのだが……。

 それはまた別の話である。


                                 (終)


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